セミナーレポート|「採用と定着のこれからを考える」②
和6年12月6日(金)、企業向けセミナー「採用と定着のこれからを考える」の2回目が開催されました!
https://fukui-asuhenotayori.mhlw.go.jp/n/ncd026ec4ff3e
第1部|社員同士の交流の機会を増やし、仕事の生産性を高める
第2回第1部のゲストは、株式会社松川レピヤンの松川晃久さん。
松川レピヤンは織ネームを中心とした細巾織物を製造販売している会社で、100名近い従業員が在籍しています。
アットホームな社風の中で、従業員一人ひとりの思いを吸い上げ、また評価も行う。
その結果、従業員の主体性や意識が徐々に変革してきたといいます。
そんな松川レピヤンの取り組みについてご紹介いただきました。
関係性やアイディアを育む風通しのよさ
松川レピヤンという会社の特徴としてまず松川さんが紹介してくれたのは、風通しのよい社内環境。
役員も含めた社員のそれぞれをニックネームで呼び合い、年齢に関係なくフラットなコミュニケーションがとれる環境が整っているといいます。
社員の7割が女性で、小さなお子さんを持つ方も多数在籍。
そのため、お互い様の文化が浸透しており、育児や体調不良による休みに対する社員間の理解も深いとのこと。
また、そんな風通しの良い文化が発展して、社員発信のプロジェクトが活発になってきたといいます。
「例えば、社員の不要になった服、小さいお子さんをお持ちの方が多いのでそういった服を集めて、いらなくなったものを集めて社員や地域の方に販売し、その売り上げを、こどもホスピスに寄付するラベコという取り組み。前回は能登地震の方に寄付させていただきました」
このほかにも、「工場見学をデザインしよう」というプロジェクトや、「レピヤン運動会」など、社員発信のプロジェクトがどんどん生まれてきているそうです。
新社屋と意識の変化
また、令和4年には「福井でいちばん大きなおうち」というコンセプトのもと、新社屋の整備も実施。
社員食堂も兼ねたカフェやギャラリーなども備え、社内だけでなく社外や地域の方との接点にもなっているといいます。
新社屋になり来客数が急増したことで、「見られる」という意識が高まり、挨拶をはじめとした行動や態度の変容が起こりました。
また、新社屋を通じて増加した外部との交流が、社員の主体性や価値観を広げ、会社全体のポジティブな変化にもつながったそうです。
評価制度
もうひとつ、松川レピヤンの特徴的な取り組みのひとつが、その評価制度。
会社の状況としては、直近13年間の中で、売り上げは約3倍、従業員数は約4倍と急激に増加していきました。
しかし、事業規模と従業員数の増加に対し、社内評価制度が追いつかない状態だったといいます。
そんな中で考えられたのが、「360度評価」。
「この360評価とは、上司だけでなく同僚や部下、そして他部署など複数の関係者から評価を行う手法です」
知識や技術、心の成長を自身で評価する「自己評価」、身だしなみや挨拶と言った共通項目と、部署ごとに異なる専門項目を点数で評価する「点数評価」(自分の部署のみ)、感心したことや感謝の気持ちを◯、のびしろを△として自分以外の役員や社員へのテキストを記載する「テキスト評価」(全部署対象)、そして社長と常務による個人面談。
社員同士で評価し合うというシステムに当初は反発もあったそうですが、少しずつルールを加えていくことで安定化。
普段からコミュニケーションを大切にする松川レピヤンだからこそ実現できる評価システムかもしれません。
年中行事の見直しと福利厚生
これまで毎月のように行っていた社内行事は、経費の削減も兼ねてその必要性を改めて見直し。
顧客との関係や社員同士のコミュニケーションを図るために欠かせない行事は残しつつ、新しい取り組みとして役員が従業員をもてなす「レピヤンホームパーティ」も企画。
形式的な行事ではなく、社員同士が気兼ねなく親睦を深めることのできる場として社内行事を整理しました。
また、福利厚生については、社員食堂や会社の保健室、体育の時間などを設けることで暮らしと健康にも目を向け、MVP制度などを設けることで働くことに対するモチベーションの維持も図っています。
確立されてきた「レピヤンらしさ」
元々あったアットホームな社風に加え、関係性を活かした360度評価の実施、新社屋の完成、社内行事や福利厚生の見直しなど、この数年間でさまざまな取り組みを進めてきた松川レピヤン。その結果として見えてきたものはなんだったのでしょうか。
「コロナ禍には2〜3割落ちていた売上が、今期は過去最高売上を更新しました。社員発信の文化が浸透してきたことで、企業ブランドとしての『レピヤン』が確立されてきました」
挑戦と成長の環境づくり、働きやすさを支える福利厚生と、自分たちの意志を伝える情報発信が大きな要素となり、会社の強みとなります。松川さん曰く、「その会社らしさ=会社の強み」だといいます。
「らしさって、いわば個性みたいなものです。個性が強いと好き嫌いも分かれると思うんですが、僕はそれでいいと思ってるんですね。個性があるからこそ選ばれるし、ミスマッチも防げると思うんです。自分の会社らしさ・個性をどう表現するか、発信するかで、最終的に採用や定着といったところにも繋がるのではないかというふうに考えています」
第2部|社員との対話から組織を変えることはできる
第2回第2部のゲストは、特定非営利活動法人スマイルネットワークさかい 常務理事の桝井宏之さん。
スマイルネットワークさかいは、障害児の療育支援、障害者の就労支援、重度障害者の日中活動支援、障害者・障害児の相談支援などを行うNPO。
人材不足業界と言われる福祉業界の中で、定着に向けてさまざまな取り組みを行っています。今回はそのなかでも、社員との対話をテーマにお話いただきました。
1on1セッションで声を拾い上げる
スマイルネットワークさかいが、従業員の定着やチーム醸成のために大切にしていることが、1on1でのセッション。
同事業所で働く年代は10代〜80代と幅広く、職場に求める考え方もさまざま。
とにかく話をして聞いてみないとわからないということから、1on1セッションを始めることにしました。
4半期ごとに実施される「定期セッション」と、働き方やキャリアアップ、人間関係、起業相談など不定期に発生する「その都度セッション」があり、それぞれのタイミングでさまざまな意見を拾い上げていきます。
社員の声が職場を変える
1on1で拾い上げた声は、できることから現場に反映していきます。
例えば、ケガについては労災保険でカバーしているものの、内部疾病で病気にかかって入院してしまったときの不安があるという声に対しては、病気入院時の入院費保障保険に事業所で加入することで、万が一の不安を軽減。
子どもの進学が重なり出費がかさんでしまうので収入源が必要という声に対しては、業務に支障がでない範囲であれば、事前申請でダブルワークもOKに。
時短や在宅ワークが可能な方に対してはそれらを取り入れてもらうことで安心な子育てや介護に活かしてもらうなど、1on1での声を活かして働く環境の改善に取り組んできました。
また、1on1を通して新規事業の提案が若手職員から上がってくるようになったり、ハラスメントのたねも早期発見ができるようになってきたりと、さまざまなメリットが感じられるようになったそう。
「自分たちが声をあげていけば、働きやすい職場をつくることができるという実感を、従業員のみなさんには持っていただけたんじゃないかなと思います。ただ、不平不満というものはなくなることはないと思いますし、これからも対話を通して折り合いをつけながら進んでいくしかないのかなと思っています」
心をひとつにして未来へ向かう
従業員の声を拾い上げながら環境改善に取り組んできた中で、よりよい未来を目指して桝井さんたちが取り組んでいるのは、経営理念と行動指針の刷新。
自分たちプロ集団として未来に向けて成長しつづけ、誰もが住みよい地域社会を作り上げるための柱となる経営理念や行動指針を、社員全員で意見を出し合い、推敲して刷新を行っています。
「福祉業界は人手不足業界のひとつですが、対人の直接支援は機械装置やAIでの解決が難しいことも多いです。従業員一人ひとりの力量も様々ですが、人は宝、人財と成すことが大切ではないかと思います。多様な個性や変化する個性を尊重して、適材的所でそれぞれが強みを発揮し、輝ける職場を目指していきたいなと思います」
4つの講座に渡るセミナーも、今回で無事に終了となりました。
「採用と定着」に関するさまざまな企業の実践は、いかがでしたでしょうか?
今回の内容が、少しでもみなさまの参考になるものとなれば幸いです。